362回 『ばけばけ』には出てこなそうな小泉八雲の話
とうとつだが、今回は小泉八雲についての話である。お察しのとおり、編集氏から提案されたテーマの中から選んだもので、八雲とその妻である小泉節子をモデルとしたNHK連続テレビ小説『ばけばけ』が現在放送中ということでこの提案があったのだろう。このテーマで何を書けばいいというのも悩むところで、八雲と節子の略伝を書くのが無難なのだろうが、『ばけばけ』の制作が発表されて以来、そんなものはネット上にあふれかえっているし、ここでまた一つそれを増やしても…という話である。
なかなか難しいお題である気もするが、八雲やその作品について思っていることがいくつかあり、こういう機会でもないと書いたりしないだろうなと思って選んだ次第である。
一般に小泉八雲の代表作といえば『怪談』ということになるだろうし、そこに収録されている「耳なし芳一」「雪女」は日本怪奇小説のスタンダードであると言っても何の差支えのない有名作品である。
ただ、八雲の残した作品の中でどれが一番怖いかということになると話は違ってくる。
八雲の作品の中から私が一番怖い話を選ぶならば、『骨董』に収録されている「茶碗の中」ということになる。多くの怪談・怪奇小説愛好家から高い評価を受けている作品であるので読者の中にも知っている人は多いかもしれない。
八雲の怪奇小説は妻・節子を中心に協力者から聞き取りをした日本の民間伝承・説話・文献(八雲の死後に書かれた小泉節子『思い出の記』によると、文献を読み上げるのではなく、内容を自分のものにしてから自分の言葉で語ることが要求されたという)などを素材に英語で執筆されたものである。日本で読まれているものは、その和訳だ。