59本目・『青春の甘き香り』その四
奇跡と言っていい『青春の甘き香り』のDVD発売日、10月31日が近づいてきた。
これがなぜ奇跡か。
そもそも見た人が画期的に少ないのだ。
極端にいえば誰も知らない。
視聴率の悪いテレビドラマはいくらでもある。とくに最近は多い。企画の時点で誰が見たいんだ、というテレビドラマが多いと思う。貧すれば鈍するだ。まともに作りたくても予算がなかったりスタッフがいなかったりアイデアそのものがなかったり、あったとしてもそれじゃあ誰も見ないでしょう、と潰されたり、予算がないからそれはできませんよと潰されたり、じゃあどんなんならいまの人は見てくれるんですか、みたいなことを言っているうちに結局誰も興味のないものを誰も気乗りしないまま作っている、それでも地上波テレビのレギュラーという肩書があると通る仕事や案件もあり芸能事務所やタレントの個人事務所であってもその仕事はないよりあったほうがいい。たとえ誰も見てなくても。
いや、誰も見てないということはやはりないのだろう。まだ現状の地上波テレビならば。
たとえ自分や周囲の人が見てなくてもそれでも誰かが見ている。テレビを見る人が減ったと言ってもまだまだ分母は大きい。食堂や病院のロビー、駅の待合室には相変わらずテレビがついていて、かくいう私も昨夜。深夜1時に飛び込んだ松山の牛丼専門店『三河家』で牛丼食べながらテレビを見ていた。アフリカのドキュメンタリーだった。深夜にひとり、牛丼に生玉子をかけて、テレビを見ながら喰う遅い晩飯は風情があった。私は孤独が好きなんだなとあらためて思った。寂しいのはつらいけどきらいじゃない。風情がある。自分でプログラムを選べる配信ではこの味が出ない。この寂しさ、侘しさ、せつなさがない。センチメンタルな牛丼にならない。たいへんおいしかった。
どんな番組でも誰かは見ているのだ。
だが。
『青春の甘き香り』は放送されなかったのだ。