59本目・『青春の甘き香り』その八
ひとつの恋愛がはじまるとき、ひとつの恋愛が終わる。
結城しのぶと村野武範の場合もそうだった。
新宿ゴールデン街の若いママ・杉本美樹と売れない役者・村野武範は交際していた。
「あのこ、いいこよ」
突如現れた大学生・結城しのぶを最初に評価したのは杉本美樹だった。村野武範は結城しのぶのことを嫌っていたからだ。ほめた。実際、いいこだと思ったからだ。だが、ほめながらなにかが頭をかすめた。そして言った。
「好きにならないでね」
そう。
それはいやな予感であった。
そんなことあるわけないだろう、村野武範は答えた。
結城しのぶもこんなダサいヤボテン、かんべんしてくれと思っていたことだろう。
だが恋愛はそれでも始まる。
むかし(ここから私の話です)。
恋愛中の女性と連絡がつきにくくなっていたとき。
リリー・フランキーと飲み屋に入った。彼は言った。
「男ができたんでしょうね」
そんなことないと思うよと私は言ったが、ま、結果的にそのとおりだった。そこだけは切り抜き動画のように覚えている。そうかもしれないなー、そうじゃなければいいなーと思っていることは現実だったりする。いや、たいてい現実だ。
