大手の報道機関はコロナ禍以降に陰謀論から生まれた社会運動に対して無警戒で知識もなかったために後手に回り、排外主義・差別主義に反対している人たちの多くもそういった荒唐無稽で奇妙な陰謀論など特に注視してきていなかったであろう。まあ、メロンパンを食べたら死ぬというような妄言を発信していた政党が排外的なものにのっかって急激に支持をのばしたりするなんて誰も想像できないだろう…。
そういった中で現状を高い解像度で認識できているのは現場でそういったものと向かい合ってきた人だけなのだと思う。
どの章も読みごたえがあり、内容的に充実しているのだが、強いてあげるならば山崎リュウイチ氏が担当した第2章が個人的によかった。
山崎氏の原稿で新書に収まりきらなかった部分が『日刊SPA!』の2025年11月28日に「陰謀論に飲み込まれ崩壊……『財務省解体デモ』の報道されなかった裏側」、2025年12月2日に「『財務省解体デモ』が排外主義運動へと変貌するまで。人々の“あやふやな不安”を後押しに」の2回にわけて掲載されている。「財務省解体デモ」の実像にせまった力作であり、そちらも本書の副読テキストとして必読である。
今まで陰謀論に興味を持っていた層はもちろんなのだが、そういったものに関心が薄く、急激に排外的空気が蔓延していっていることに戸惑い不安を感じている人にこそ読んでほしい本だ。
