353回 『南波一海のアイドル三十六房』の終焉
25年8月6日、『南波一海のアイドル三十六房』レギュラー回が13年弱の歴史に終止符を打った。
『南波一海のアイドル三十六房』はタワーレコード配信のストリーム放送。音楽ライター・ミュージシャンの南波一海とタワーレコード社長の嶺脇育夫がパーソナリティを務める会場での観覧可能なアイドル紹介番組だ。
毎月第一木曜日20時30分から配信が行われ、アイドルの楽曲を紹介してきた。当初はハロプロをはじめとするメジャーなアイドルがトークゲストによばれることが多かったが、音源を紹介して欲しい4組から5組の飛び入りゲストとのトークパートを交えたレギュラー回と、ハロプロメンバーやT-Palette RecordsやPENGUIN DISC(南波一海主催)といったタワーレコード内に設立されたアイドル専門レーベルでリリースしているアイドル等をフィーチャーした特別回におおまかに分かれるようになった。
ハロプロをフィーチャーした特別回のイメージが強い人のほうが人数的には多いと思うが、個人的にはレギュラー回のほうが印象深い。
南波氏が掘ってきた音源及びアイドルやオタクが持ち込んできた音源を紹介するのだが、その多くが全国流通していないライブ会場限定のCD-Rであった。南波氏自身もそういった音源の収集に熱心(自身が現場に行けない時は知り合いのオタクに代行購入を頼むなどしていたのを頼まれた人から聞いたりもした)だったが、それでも漏れるものは出てくるわけで、各地の地方アイドル専門に日々遠征活動しているオタクや対バンライブ(過疎現場も多い)を渡り歩き、結成間もないグループをすぐチェックするようなオタクが見つけてくる音源はそれを補完するものだった。
これによって注目を集めた楽曲も多く、初期の代表例としてはPOP’N KISSの「鳩、低空飛行」があげられるだろう。
また、紹介される音源の多くがタワーレコードで扱っていない作品であり、17年2月より、番組配信中に限り、タワーレコードの店頭、オンラインで取扱っていないCD、CD-R、DVDなどをその場で買えるようにする「三十六房市場(通称・サブロク市)」が開催されるようになり、それ目当てで訪れる観覧者もいた。
飛び入りゲストとして出演することで楽曲のみならず、本人の個性に日があたり、知名度や注目度をあげた地下アイドル・地方アイドルも多い。そういった効果を最も活用したのは里咲りさであり、16年から17年にかけて5回も出ている。また、初期の眉村ちあきの躍進にも影響があったと思う。
深めの地下現場に足繫く通うようなタイプのオタクにはすでに知られていても、地下としては既に知名度が高く評価も定まっているような現場に通っている層や、地下アイドルに興味はあるが現場にさほど通っていない層にはあまり知られていなかったアイドルが、この番組に出ることによって知名度が増した例も多いだろう。
そういうこともあって、出演希望者が増加していき、飛び入りゲストといっても申し込み順に出演が決定する形式だったのだが、19年8月の段階で20年1月のゲストが埋まってしまう事態になってしまったという。当初の2か月連続出演不可ぐらいのゆるい縛りが。前回出演時から6か月空ける、前月に新譜リリースがあるアーティストに限るなど縛りが増えていったのだが、それぐらい影響力が期待されていたのだ。