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『南波一海のアイドル三十六房』の終焉:ロマン優光連載353

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また、飛び入りゲストの傾向も、一般的なイメージの地下アイドルは少なく、楽曲や本人が得意な個性を持っている人が中心で、BELLRING少女ハートやゆるめるモ!以降の既存の地下アイドル業界の人間ではない音楽畑等の他業種からのアイドル運営やセルフプロデュース・アイドルが増加した15年以降はそれが顕著だった。

そんな『南波一海のアイドル三十六房』が終焉を迎えるにあった背景としてはアイドルのマーケットの縮小、特に番組で取り上げてきたようなタイプのアイドルはその傾向が強く、楽曲(特に個性的な音楽性)にこだわって聴く層が絶滅寸前状態であること、楽曲にこだわる層にしても、サブスクによる配信が普及することで全国どこででも地方アイドルや地下アイドルの楽曲が聴けるようになったことで、CDR音源を求めてさまよう必要がなくなったと感じる人も増え、それまで番組が担ってきたような役割がそこで機能されるようになったということがあげられると思う。

アンダーグランドなオルタナティブな楽曲や活動のアイドルの現場規模が縮小するなか、そういったアイドルを紹介する、そしてフックアップすることができる最後の牙城として頑張ってきてくれたことに感謝したい。南波さんもお金にならないし、嶺脇社長もタワーの売り上げに貢献するわけでもないのに、この状況でここまで続けたことは頭が下がる想いである。

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2016年のアイドル

初期の『三十六房』を代表とする「鳩、低空飛行」という曲は非常に奇妙な楽曲だ。非常にチープなトラックと録音環境、何の比喩でもなく鳩の生態を歌った歌詞、アイドルっぽくない童謡を思わせるような歌唱。一度聴いたら頭から離れられないような曲である。

ももいろクローバーのブレイクの余波で生まれた10年代前半の地下アイドルブームやAKBの成功によってインスパイアされた地方アイドルブームによって、それまでアイドル楽曲の制作に関わっていなかったようなミュージシャンが音源制作に関わるようになる流れがあった。そんななかで、S-Qtylyrical schoolLinQといったアイドルの良質の楽曲が注目され、一方で、ももクロ以降の流れができる前から東京の地下で活動していたフィノリアファクトリーや色彩RECORDSに所属するアイドルの楽曲が注目されるという流れもあった。

そういったポピュラリティのある良曲が生まれる一方で「鳩、低空飛行」のような奇妙な名曲たちが不慣れな制作陣と低予算な環境の中で生み出されていった。そういった曲としては岡山のピー☆スカットの「Magical Star」やCAMIYU☆の「全力!笑顔!宣言!」が頭に浮かぶのだが、こういった一般的なアイドルファンがもとめていないような、偶然が生んだ突然変異であり、アイドル楽曲としてはバグでしかないような楽曲を音楽的に面白いとして取り上げていったのが『三十六房』と南波さんの功績の一つだと思う。

ちなみに、そういったバグ性と良曲性が混在していたのがスパイラル・ミュージックでの浦田尚克による楽曲群や皮茶パパによる作品である。

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