アメリカの社会哲学者エリック・ホッファーは著書『大衆運動』で、「騙されたい人間」がいるからだと言う。
《忠実な信奉者たちは、見るに値しない事実や聞くに値しない事実に対して「目を閉じ、耳を塞ぐ」能力をそなえているのであり、この能力こそが信奉者たちの類いまれな忍耐力と思想的堅固さの源泉なのである。運動の信奉者たちは危険によって怯えることも、障害によって気力を奪われることも、反論によって困惑することもありえない。というのも彼らはそうしたものが存在することそのものを否定するからである》
社会に蔓延する不満や悪意に火をつけることにより、運動は拡大していく。「欲求不満を抱いている人々」は、「不満足な自己から逃れ、そうした自己を偽装させたいという願い」により、「堂々とした大掛かりな見世物に完全に同化しようとする」。「都構想」という名の大阪市を解体する詐欺のスキーム、万博やカジノも同じようなものだろう。
ホッファーは言う。
《大衆運動の活動においては、ほかのどのような要素よりも虚構が永続的な役割を果たすだろう。(中略)どれほど冷静な人でも、大規模で印象的な見世物を目にすると感動するものである。こうした見世物の参加者も観客も、心を弾ませて興奮のうちにわれを失ってしまうのである》
共通の敵、スケープゴートをでっちあげるのも過去の悪霊と同じ。
《ヒトラーは反ユダヤ主義を利用してドイツ人を統一させただけではなく、ユダヤ人を憎んでいる諸国、すなわちポーランド、ルーマニア、ハンガリー、そして最後にはフランスの確固とした抵抗の意志を弱めたのである。ヒトラーは共産主義への憎悪も同じような形で利用したのだった》
共産党に対し、「日本からなくなったらいい政党」と公言する馬場を含め、人類の過ちを再び繰り返しているのが維新である。
初出:実話BUNKAタブー2023年10月号
PROFILE:
適菜収(てきな・おさむ)
1975年山梨県生まれ。作家。大衆社会論から政治論まで幅広く執筆活動を展開。『日本をダメにした新B層の研究』(K Kベストセラーズ)『ニッポンを蝕む全体主義』(祥伝社新書)など著書多数。