フェミニズムの大まかな流れ
西洋で近代家族システムへの不満から始まったフェミニズムであるが、時間を軸に大きく分類すると、19世紀に始まった第一波から現在の第四波といわれている時期の4区分にわけられ、主張を軸に分類すると「マルクス主義」「ラディカル」「ブラック」「ポストモダン」「リベラル」など様々な流派がある。現在進行系で多様な立場、主義主張が展開されているが、総じて、セックス/ジェンダーの社会的変容を目指す思想であり、かつ、個人や集団による実践・運動という性質をもっている。
以下、第一波から現在までの大まかな流れと、現在のフェミニズムが抱える問題を提示していく。
〈第一波フェミニズム〉
1860年代から1920年代にかけ、欧米中心に広がった第一波フェミニズムは、参政権、財産相続権など、公的領域において男性と同等の権利を求めるものであり、ガヴァネスといわれる住み込み女家庭教師や、医師や弁護士などの女性専門職業人といった中産階級女性が主な担い手となった。この時期のフェミニストたちの課題認識は、生物学的な男女の性差(セックス)を階級格差と位置づけ、劣位に置かれた「女性」という階級を、「男性」と同等の位置に上昇させることにあった。
〈戦争による実質的な女権拡張〉
第一次世界大戦・第二次世界大戦など、戦争による男性労働者不足は女性の雇用を促進し、社会進出を後押しした。文化・芸術の分野でもそうだ。例えば、イギリス文学界では男性作家の徴兵や戦死が女性作家の紙面占有率を底上げした。
また、戦争協力によって女性の地位向上を目指すフェミニストもいた。投石や爆破など、英国の戦闘的な女性参政権運動を組織し、度々批判されたエメリン・パンクハーストは、女性の戦争努力への貢献を参政権獲得のための礎にしようとしたし、婦人参政権獲得を目指した市川房枝は、大政翼賛会の活動に邁進し、戦争協力を惜しまなかった。
〈第二波フェミニズム〉
1960年代から70年代に広がった第二波フェミニズムは、戦後の生産力の向上による大量消費社会の到来に際し、家庭こそが社会道徳の解体に対する最後の防波堤とみなされたことへのフラストレーションや、公民権運動や反核、ベトナム反戦運動に参加していた女性たちによるブルジョア的価値・道徳の否定と、妊娠・中絶の自己決定、性役割への異議申し立てが中心であり、高学歴中産階級主婦や高学歴女子学生が主な担い手となった。
この時期のフェミニストたちの課題認識は、生物学的な性差(男性、女性)であるセックスと、その上で組み立てられる社会文化的な意味づけ(男性性、女性性)であるジェンダーという二元的な区分を採用し、セックスに対してジェンダーを優位に位置づけること。男女の社会的性差(ジェンダー)を階級格差と位置づけ、劣位に置かれた「女性」という階級の解放を求めることにあった。アン・オークリーは、「妊娠と授乳ができる」ことが、それ以上のことを女性に要求するための正当化に用いられていると批判し、ケイト・ミレットは「父権制」が支配的な構造を作り上げていることを立証しようとし、フェミニズムの問題領域を生物学的な基盤から文化の領域へと移行させた。
フェミニストたちがセックスに対してジェンダーを優位に位置づける傾向は現在まで続いている。
〈第三波フェミニズム〉
1980年代後半から広がった第三波フェミニズムは、冷戦終結以後、グローバル化と脱産業化、個人主義の時代を背景にする。公的権利の獲得や雇用機会の均等など、名目上の男女平等が達成され、日本においても、フェミニズムはアカデミズムで確固とした地位を獲得し、第二波までのフェミニストが要求してきた政策課題は法律や行政に組み込まれるようになった。
フェミニズムは目的を終えもう必要ないとする動きも出る一方で、フェミニストの関心は、より個人主義的でミクロな問題に移行し、サブカルチャーやポップカルチャー、メディアを通じてフェミニズムを広げる活動が活発化する。
第三波において、フェミニストたちの課題認識に大きな変革が起こる。第二波までのフェミニズムが白人・中産階級・異性愛女性を「標準」と位置づけていたことの反省から、差別の複合的な構造に目を向けるインターセクショナリティ(交差性)が標榜されるようになり、意識的に有色女性や貧困女性、セクシャル・マイノリティを包摂するようになる。男女のセックスとジェンダーの他にも、人種や階級、セクシュアリティ、障害の有無など、複合的で男女の二元に還元できない問題があることを認識する中で、フェミニズムは「女性=被害者」という単純化されたモデルを手放さねばならなくなる。
結果として、「女性」というカテゴリの複雑化と細分化が起こったものの、主な担い手が高学歴中産階級女性であることに大きな変化はなかった。
〈第四波フェミニズム〉
2010年代後半以降の現在は、第四波フェミニズムといわれている。スマートフォンの普及と同時期に拡大した第四波は、基本的には第三波フェミニズムと同じ課題認識を持っているが、「性」とアイデンティティをめぐる様々な問題がより中心化している。インターネットの普及、とりわけSNSに代表される情報発信媒体(メディア)が増えたことで、個人のメディアへのアクセスが容易になり、フェミニズム自体がよりポピュラーなものになった。
特筆すべきは、「#MeToo」を始めとした、SNSのタグ付け機能を活用したハッシュタグ・フェミニズムという手法である。SNSの双方向性と拡散性によって、個人の経験や問題意識の共有、コミュニティ形成、運動への参加を呼びかけるこの手法は、フェミニストたちの問題意識や議論だけでなく、対立や分断もおおいに可視化させる。