現在のフェミニズムの問題点
第四波フェミニズムの問題は大きく3点、ポピュラー化と権威化、過剰な可視化にある。
第三波以降、社会的地位が向上したフェミニズムは、大手メディアに「ブスのババアの僻み」と揶揄された第二波までとは異なり、日々メディアで肯定的に取り上げられ、企業はフェミニズムを「上昇志向」な消費者向けのPRに使うようになった。その一方で、自らの権威性に無自覚な有識者フェミニストなどが、SNSで頻繁に炎上するようになる。フェミニズムは対立や論争とともに拡大していった思想・運動であり、「女性」というカテゴリ自体が複合的な性質を持つ以上、論争が起こること自体は必然であるのだが、地位や権威を持ったフェミニストらが正当な批判に対しても「女性差別」「キモいおじさん」と被害者ポジションを取って応戦する様は、ネット民を大いに失笑させ、Twitter上でフェミニズム的な言動を展開する人々をやや侮蔑的に指す俗語として使われていた「ツイフェミ」と、「フェミニスト」という言葉の境界線は曖昧になる。
キーワードマップ作成ツールに「フェミニズム」と「フェミニスト」を入力すると、その結果には大きな乖離がある。フェミニズムが「本」「論文」「歴史」といった一定の権威性を持つものとして認識される一方で、フェミニストは「炎上」「ひろゆき」「論破」など、香ばしい存在として認識されていることがわかる。フェミニズムは確固とした地位を獲得したが、フェミニストは歴史を通じて変わり者と思われているだけかもしれない。
「アテンション・エコノミー」とは、メディアの増加による情報過多の状態により、情報の質よりも人々の関心や注目を集めること自体が重視され、資源または交換財になることを指す言葉だが、アテンション・エコノミーがもたらす負の側面は第四波フェミニズムにおいても顕在化している。
リツイートやいいねの数が多ければ「個人の経験」から「社会問題」になるハッシュタグ・フェミニズムの構造は、「最も可哀想な被害者」や「利他的な懲罰を与えるにふさわしい物語」を求める欲望を刺激する。告発者が美しいことも重要だ。結果、差別の複合的な構造に目を向けることよりも、情動を刺激する視覚や表現が優先され、第三波において手放されたはずの「女性=被害者」という単純なモデルが復活する。
第四波フェミニズムの問題であるポピュラー化と権威化、過剰な可視化は、現在フェミニズムがインターネットで炎上する原因そのものなのである。
文/柴田英里
初出/実話BUNKA超タブー2023年3月号
PROFILE:
柴田英里(しばた・えり)
現代美術家(彫刻中心)・文筆家。1984年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科彫刻領域修士課程修了。著書に『欲望会議「超」ポリコレ宣言』(千葉雅也、二村ヒトシとの共著。KADOKAWA刊)。主な論考に「いつまで“被害者”でいるつもり?──性をめぐる欲望と表現の現在」(『早稲田文学増刊女性号』筑摩書房刊)など。
twitter:@erishibata