炎上して話題になりそうだったら何でもいいみたいなタイプの出版社とは違うのだ。執筆意図に関する著者自身の主張はさておき、出版社的には反トランス的な狙いがあって発売した疑いは濃厚だし、読者にはそのように「使う」ものが多い本なのは確かだ。
既にそういった文脈に取り込まれている本を出版するにあたり、KADOKAWA側にどういう考えや対策があったのかが気になる。
もし、純粋に未成年の性別違和に関する診断や医療行為、移行解除の問題に焦点をあてて問題提起をしたかったのなら、既にまとわりついている文脈から切り離すための対策が必要とされるだろう。しかし、それがなされているとはとうてい思えない。普通に考えたら、トランス当事者に不安を与えない対策や読者を安易な偏見に誘導しないための背景説明、著者が参考にしている資料の妥当性の解説などが必要なのではないか。
それなのにタイトルや宣伝文は逆にトランスジェンダー全般に対する偏見や差別を煽りかねないものになっている。また、竹内久美子氏やナザレンコ・アンドリー氏、百田尚樹氏、三枝玄太郎氏といった反LGBTQの傾向が見られる人物、日本の宗教右派の思想と親和性の高い人物に本書のゲラを送っている。
ナザレンコ氏や三枝氏のポストを信じるなら、妨害が予想されるので応援してほしい、というメッセージがあったという。抗議は想定内であり、抗議されたところで出版を取り止める気はなかったということではないだろうか。内部の都合による中止という線はさらに濃くなった。