そして彼らがこの本に言及した場合、反トランス的な文脈だったり、背後に左翼勢力の陰謀があるといった話(消去済みだが、竹内氏は実際にそういうポストをX上でおこなっている)に結びつけられるのは必至だ。つまり、そのような文脈で受け取られることを望んでいたということになる。
ヘイト本的需要を期待して売ろうとしていたのは間違いないだろう。
ただ、今の時点では彼らに応援を依頼したのが実際に出版を企画した編集部なのか、営業部の意向なのかはわかっていないので出版企画の当初の目的はどうだったのかはわからない。
どういう意図があっての発売か?
この本がおかれている背景を理解した上でなのか? タイトルや宣伝文の意図は何か? ゲラの送り先を選ぶのにあたっての基準は何か? それらは編集部と営業のどちらの意向なのか? 発売中止は現場判断なのか上層部判断なのか? 発売中止に至った経緯は何なのか?
こういったことについて現状では何の説明もないが、説明してしかるべきなのではないか。
何の後ろぐらいところもなく、良い本であると信じて発売しようとしたのなら、堂々と出せばいいだろう。
信念があるなら発売して世間がどう判断するかを待てばいいのではないか。
ああいう感じで発売中止にすることで、自称「保守」やトランスヘイターにキャンセルカルチャーだと騒ぐキッカケを与えたし、過程や背景を考えずに焚書などと言いだす雑な人は出てくるし、翻訳者は無駄な仕事をさせられたし、会社は損するし、いい加減な幕の引き方にしたって、ほどがあるだろう。
ほんと、そう思う。
何でこうなったのか。関係者の説明を聞きたいと心底思う。
直接関係ないが、今回のことでネットで調べものをしている時に、悪名高い『大紀元』(中国の新興宗教・法輪功のニュースサイト。反中国共産党と各種右派的な陰謀論やデマ記事で知られる)で「アニメ・マイリトルポニーの影響でトランスジェンダーになった少年の悲劇」という内容の酷い記事を偶然見つけてしまったのだが、マイリトルポニーは一部の極右ファンに変なイメージつけられたかと思えば、かってにトランスジェンダー化(トランスジェンダーに「なる」というのがそもそも変なのだが)の元凶にされたり、いろいろ大変だなと思った。
〈金曜連載〉
写真/Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing Our Daughters
北野武監督作『首』は面白い:ロマン優光連載268
ASKAのBUCK-TICK櫻井敦司死去に関する発言について考える:ロマン優光連載263
いまだに続く「恒心教」の連鎖:ロマン優光連載254
君たちはどう生きるか:ロマン優光連載249
PROFILE:
ロマン優光(ろまんゆうこう)
ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。
twitter:@punkuboizz