若い頃のアルビニ
ニルヴァーナの3rdアルバムに関する話がやたらとX(旧Twitter)に流れてくるが、ロックの商業的な歴史の中では重要な出来事だし、アルビニの仕事の中では最も有名な仕事ではあるが、アルビニを中心に考えるならまた違う話で、あれはあくまでニルヴァーナの物語の中の話だ。
私が最も多く聴いた可能性が高いアルビニプロデュース作品は90年代初頭の日本のバンドを収録したオムニバス『Bad Sun Rising』シリーズで、自分がライブを観に行っていた好きなバンドがたくさん収録されているから。レコーディングされてから発売されるまで長い時間がたったという記憶。
アルビニ録音ものといえば元Naked Raygunのメンバーらによるメロディックで硬質なハードコアパンクバンド(メロコアではない)Pegboyが93年にだした『Fore』EPがアルビニらしいサウンドだなと思う。ここではメンバーとしてアルビニはベースも弾いている。地元の友人たちとの演奏と録音。
シカゴのパンクシーンに関わるようになったころ、アルビニは大学生だったのだが、当初はベーシストを目指していたようだ。シカゴの大学生らによるNW、ポストパンクバンドStationsの81年のデモテープではアルビニのベースプレイが聴けるのだが、音作りは後年のBig Blackのベースに近い。
ただ、これは若きアルビニのベーシストとしての独創性を意味するものではなく、当時のシカゴのパンクシーンの影響化にあるものだと考えるほうが自然だ。初期のシカゴパンクシーンでWay-Outs、Naked Raygun、Silver Abuseといったバンドに在籍し、アルビニのShellacにも立ち上げ時に一瞬参加したベーシスト・Camilo Gonzalezのスタイルの影響下にあるものではないか。
80年代初期のアメリカのハードコアパンクのシーンは各州、各地方ごとに独自のカラーがあり、その中には一般的に想像されるハードコアパンクのイメージとは異なるバンドが多く含まれている。こういった情報は日本ではあまり知られておらず、グランジブーム前後に当時のアメリカのアンダーグランドシーンの音源が入ってくるようになって認識が広がった。
シカゴのシーンはイギリスのポストパンクの影響とハードコアパンクの影響が一つのバンドの中で混在する、あるいは一つの楽曲の中で混じりあっていることがあるシーンだ。Big Blackのサウンドにつながるような金属質なギターやビリビリしたベースの音がなぜか流行っていた。
なぜかというと、地元の影響力の強いバンドがそういう音を出していたのが原因ではあると思う。