「おばさん」より「おじさん」のほうが差別的文脈で使われる
だいたい、「おばさん」がアウトなら「おじさん」もアウトになりますし、「おばあさん」「おじいさん」だってアウトでしょう。
それらの表現だって、差別的な文脈で使われることは多々あります。というか、むしろ、現代日本においては「おばさん」より「おじさん」のほうが差別的な文脈で使われているケースが圧倒的に多いです。フェミニストの代表格・仁藤夢乃さんが「キモいおじさん」というシリーズ動画をいくつもYouTubeにアップしているように、中年男性の欠点を指摘する際「おじさん」という言葉を使うことは問題ないとされています。
「おじさん」どころか最近は、「さん」という敬称すら省略されて「おじ」「おぢ」という言葉すら使われるようになっている始末。「アップデート」という名のもとに様々なものが批判的観点で論じられることが難しくなっている中、唯一なんでもかんでも批判していい存在とみなされているのが中年男性なのです。
臭い、汚い、話がつまらない、若作りがキモい、分不相応に若い女性に性欲を示す、など中年男性はたしかに否応なく、欠点に見える要素が増えてくる世代であり、それをいいことに、いくらサンドバックにしてもいい存在として、現代日本では中年男性があるのです。
上川外相は年齢的には本来「おばあさん」
最初に立ち返って、上川陽子外相の話に戻すと、そもそも上川外相は麻生氏の発言当時70歳です。何歳から何歳までを「おばさん」とするのかについては、人それぞれ考え方が違うでしょうが、一般的に70歳を超えていれば「おばさん」ではなく「おばあさん」です。麻生氏は「おばさん」という言葉を用いて、年齢による衰えを強調したかのように思われていますが、本来なら「おばあさん」にカテゴライズされるであろう上川外相に対して、それよりも若い女性に対して用いる「おばさん」という言葉を選んでいるるわけで、むしろ中年以上の女性に対してあえて「おねえさん」と呼ぶような配慮を見せている可能性もあります。
年齢を指し示す言葉をそもそも使うべきではないという反論もあるでしょうが、少なくとも、麻生氏が本当に侮蔑的な意図を持っていたのならば、より実際の年齢とリンクする言葉を選んで、
「俺たちから見てもこのおばあさんやるね」
と言うのではないでしょうか。「おばさん」という言葉を問題視するのであれば、少なくとも、「おじさん」も「おじ」も「おぢ」も「おじいさん」も「おばあさん」も「おじいちゃん」も「おばあちゃん」も全部まとめて問題視して禁止すべきでしょう。
文/鈴木チチロー
写真/Wikipediaより(撮影/ )