幼少時からの知人で『はだしのゲン』や沖縄戦に関する本を子供の頃に愛読していた人間がいるのだが、成人後はレイシズム丸出しの立派な「ネトウヨ」になっているので、『はだしのゲン』を読んだり、沖縄戦のドキュメントを読んだからと言って左派になるかといったら、別にそうではないわけではないのだろう。『はだしのゲン』が小学校でおかれだした時期に子供だった70年代80年代生まれの世代に左派が多かったり、反天皇制に傾いているという事実もない。逆に保守寄りの人が多いのではないか。
また、「ネトウヨ」とよばれるような人の中にはこの世代の人間も多かったりする。面白いから読んでいただけで、作者の考えから特に強い影響を受けなかった子供も多いのではないか。現代で「ギギギ」をはじめ多くのものが未だにネットミームとして引用されているのは、作者のメッセージより漫画としての面白さにしか興味がない人間が多かったということだろう。確かに凄く面白い漫画だが、そこだけ楽しむのはなんだなという想いも個人的にはある。
中沢の反天皇・反米といった想いは特定の政治思想に影響されたというものではなく、自身の戦争体験・原爆体験から生まれたものであり、戦争や軍国主義がもたらした理不尽なものに対する庶民の怒りととらえるのが妥当だと思う。そういった庶民の怒りというのは大切なものだ。左右の政治的イデオロギーで『はだしのゲン』をとらえると少しちがってくるのではないかと思う。
『はだしのゲン』は現在でも人気のある作品であり、夏になればコンビニで合本が売られるし、今年はKADOKAWAの漫画サービス「カドコミアプリ」で5巻までを期間限定(8月2日から22日まで)無料で読むことができる。10年代には学校図書室に関して島根県松江市教育委員会による閉架措置問題、大阪府泉佐野市の千代松大耕市長の要請(千代松は参政党の神谷宗幣が発足した竜馬プロジェクトの参加していたこともある保守政治家だが、理由としては作品中の差別語の使用をあげている)による回収措置問題がおきたが、その後、閲覧制限が撤回されたり、回収された作品の返却がおこなわれている。
なんであれ、この名作が現在でも簡単に接することができることはよいことであり、これからも広く読まれていく作品であってほしいと思う。