その間隙を、石丸候補は見事についたのだと思います。話は少々それますが、今話題のフランス革命後のヨーロッパを席巻したナポレオンは、馬にまたがりアルプスを越える絵が有名ですが、元は「砲兵隊長」でした。ナポレオンがヨーロッパの緒戦で勝利に勝利を重ねられたことにはもちろん様々な要因がありますが、当時実用化されつつあった新兵器である大砲を、初めて、大きな戦争で大規模に使用する戦術を編み出し、実行したことが大きかったと言われています。石丸氏も、SNS―特にYouTubeの、更に陣営外の人々による切り抜き動画の作成と拡散という、「新兵器」を戦術の中心に据え、それを大規模に実行することで、165万8363票を獲得することに成功したのだと、私は思います。
政界で活躍する確率は高くない
では石丸氏は、今後ナポレオンのような大活躍をするでしょうか? 恐縮ながら私は、そうなる確率は決して高くないと思います。その理由は、石丸氏とナポレオンの相違点、そしてナポレオン自身のその後の運命にあります。
まずもって、石丸氏は2位となったことでまるで勝者のように扱われていますが、1人しか当選しない知事選挙では当然ながら「2位じゃダメ」、石丸氏はあくまで敗者に過ぎません。石丸氏は、今現在何の公職にもついておらず、特段の仕事もしていない素浪人に過ぎません。今回の都知事選挙で大いに名を挙げたばかりか、その時集まったと報道されている2億円超の政治資金が恐らく貯金通帳に残っているものと思われますが、勝利に勝利を重ね、フランス軍司令官にまで昇進したナポレオンとは、根本的に異なるのです。
選挙後自身のYouTubeチャンネルで、石丸氏は、「4年後都知事選に出たら大本命」と発言していますが、4年という年月は決して短いものではありません。田中角栄氏が好んで使っていた「座して喰らえば大山も空し」という言葉の通り、これから4年間何もしなければ、石丸氏はこの都知事選挙で高めた知名度と2億円の寄付を食いつぶし、次の都知事選挙ではダークホースになれるかどうかすら、怪しいだろうと思います。
では、そうなる前、知名度と預金口座の残高が高いうちに次の勝負―秋にも解散がありそうな気配の衆議院選挙、来年7月には確実に行われる参議院選挙、もしくはそれ以外の首長選挙に打って出たらどうかということになりますが、その道も、決して平坦なものではありません。