「アテネ五輪を5カ月後に控えたその日、監督に就任するはずだった茂雄が脳梗塞で倒れたのです。メディアでは『もう長くはない』という声が囁かれましたが、なかなか病状は漏れ伝わってこなかった。その際、メディアと長嶋家のスポークスマン的な役割を果たしたのが一茂でした」
長嶋家に関係する、もう1つの会社が「オフィス・エヌ」だ。同社は一茂の母、茂雄の妻である亜希子が代表を務める長嶋家の資産管理会社だが、同社を巡り、長嶋家の歯車が狂っていく。07年9月17日、亜希子は一茂夫妻らと会食した際、体調不良を訴え、入院。そのまま意識が戻らず、翌日午前4時、心不全のため死去したのだ。亜希子の死後、「オフィス・エヌ」の代表取締役は三奈が引き継ぐことになった。
「ナガシマ企画」と「オフィス・エヌ」。この2つの会社の権利関係の争いは、そのまま長嶋家の長男と次女の根深いトラブルに繋がり、現在まで続いているのだ。内情を知るスポーツ関係者がいう。
「根底にあるのは、言ってみれば長嶋茂雄という莫大な利権ですよ。球界の神様として崇められる茂雄は、死後もグッズの販売などで莫大な富が見込める。両社は商標権をめぐる争いを続けましたが、その終止符をみずから打ったのが、当事者の茂雄だったのです」
当時、茂雄はメディアに対し、〈ご通知〉と題した家紋入りの文書を送付した。
〈私、長嶋茂雄の肖像権管理、商品化権、広告宣伝活動及び出演活動につきまして、(略)株式会社オフィス・エヌで一括して行うことに致しました。従来は有限会社ナガシマ企画が関与することもありましたが、平成21年6月15日から、改めて上記通り株式会社オフィス・エヌが責任を持って業務を行うこととしました〉
一茂と三奈の修復不可能な関係
さらに時を同じくして、一茂のある行為が長嶋家の分断を決定的なものにした。第一報を報じたのは、『週刊ポスト』(2009年12月25日号)だ。記事によると、自宅地下室に眠っていたトロフィーや野球関連グッズなどを福井県の実業家で野球アイテムコレクターの山田勝三氏に売却し、多額の利益を得ていたという。