第18回:ブレイク前夜の蛭子さん
35年ほど前。
その当時のマガジンハウスで仕事をしていた漫画家やフリーの編集者などが20人ほどで香港へ行った。
その中に私も、そして蛭子さんもいた。
香港へ向けて離陸した飛行機だが途中で引き返した。窓から機体からアブラを放出してるのが見えたと何人が言っていた。
その日は待てども飛行機がふたたび飛ぶことなし。
暗くなり、一行はバスに乗せられホテルへ運ばれて一泊した。4泊5日の旅が3泊4日になった。
翌日、空港へ運ばれて同じ飛行機に乗って離陸したがまたもや途中で引き返した。
そしてしばらくまた空港で待たされるのだった。
何が起こるのか? このハプニングに我々の一行は盛り上がって正直皆ワクワクしていた。
そこへテレビのニュース番組の取材陣も来た。我々一行にマイクとカメラを持って近づいてくる。
誰ともなしに、「ここはこのヒトだろう」と蛭子さんをかつぎ出し、「このヒト、有名な漫画家なんです」と言ってカメラの前に立たせた。
マイクに向かって蛭子さんは、
「まさかこんなことが起こるなんて面白いですねえ」
と言って嬉しそうに笑っていた。
このインタビューはもちろん放送には使われなかった。
蛭子さんがテレビの人気者として認識されるちょっと前で、テレビの人たちにとってすらこのときはまだ単なる変なヒトでしかなかった。
が、普通に考えてこんなことを喜んでいる一行は蛭子さんだけでなく皆おかしいのだ。
4泊5日が3泊4日に減って怒るのはせっかくの香港旅行を楽しみにしていたほかのツアー参加者の方々で、若い女性のグループがカメラの前に立ちマイクに向かって怒りをぶちまけていた(ちなみに旅行代理店からのちに幾らか返ってきた)。
結局別の飛行機に乗りかえ3度目の正直で一行は香港に着いた。
