「ネイリストって自分で筆とかを揃えるんですよね。自分のために揃えてたのはリーズナブルなやつで、私の中ではお客様に使えないものだったので、カードを使って買っていったら、借金が……」
衣装代といい、ネイリストの道具といい、お客様のためを思うとつい借金をしてしまう性格のようです。
「本来だったら買える範囲でやるのが普通だと思うんですけど、投資って思ってしまうんです。あと、これだけ使ったら、これだけ働けば返せるってなんとなく思っちゃうので」
アルバイトのほかにやっていたのが、動画配信の仕事です。17LIVEやPocochaなど、様々なライブ配信サービスを転々として、最終的に長く続けていたのが、音楽の配信にも強いというBIGO LIVE。
「そこで歌ってたんですけど、メロン記念日の曲は歌わなかったです。メロンの曲をここで歌っちゃいけないっていうのは自分の中でありました。4人で歌うものだし、しかもメロンの曲を歌ったらいっぱい投げ銭が飛んでくるから歌ってるって思われたくなかったんです」
BIGO LIVEには音楽の配信をしているユーザーが参加できるイベントがあり、投げ銭の金額に応じて、順位が上がっていきます。大谷さんはよくイベントに参加していて、収入も月に30~50万円ほど安定して稼げるようになっていました。
「調子のいい時ほどアンチも増えるんですけど、借金は返せていました」
しかし、コロナ禍の到来で、返済計画が狂ってしまいました。まず、4年間も続けてきたライブ配信で稼げなくなってしまったこと。
「お店を営業できなくなった夜の仕事の方たちがライブ配信を始めたら、投げ銭の金額が桁違いで、イベントに出ても太刀打ちできなくなっちゃったんです。そうするとどうせ勝てないからと、ファンの人たちも課金しなくなって」
月収はなんと1万5000円まで落ち込みました。借金はまだ残っています。
そして極めつけは、緊急事態が明けたらオープンするはずだったネイルのお店が計画ごとなくなってしまったことです。
あらゆる人に助けを求めたけれど、お金を貸してくれる人はいませんでした。
「私ってお金に計画性がなくて、夢見がちなので、お金を持ってる人たちからも自己破産した方がいいよって言われました」
最終的に背中を押したのが、Twitterを見ていた時に偶然見つけた「いのっちの電話」の坂口恭平さんでした。インターネットで公開されている電話番号に電話をかけてみると、「生活保護と自己破産しかないって言われた」そうです。こうして、大谷さんは生活保護を受給することを決めたのでした。
坂口さんからお金を貸してもらえると思っていた大谷さんは最初怒りを覚えたそうですが、いまでは2021年に自己破産をして良かったと思っています。
「自己破産するとクレジットカードがしばらく作れなくなるんですけど、無駄遣いしないし、ちゃんといまあるお札と硬貨を並べて、自分はこれで生きていかなきゃいけないってわかるのでよかったです」
生活保護の受給と自己破産の手続きを並行しているときは、罪悪感で心が死んでしまいそうでしたが、少し気分が上がった時にライブ配信を再開したら収入ができたので、生活保護の受給はやめました。それからは自己破産の手続きに集中したといいます。いまは自己破産のためにかかった費用を分割で返済している最中です。
自己破産も完了して、生活保護についてインターネットで公表すると、賛否両論の言葉が押し寄せました。
「否定的な人は本当にひどい言葉を浴びせてくるんですけど、公表したことで、誰かの勇気にも繋がるのかなって思うし、発言したことで味方も現れたので、公表したのは間違いじゃなかったんだなって思えてよかったです」
いいことも悪いことも、自分を作ってくれる大事な経験だと、大谷さんは明るく話してくれます。