PR
PR

西原理恵子の「暴力」性:ロマン優光連載214【2022年6月10日記事の再掲載】

連載
連載
PR
PR

そこに描かれているのはキャラクターであって本人ではない。あくまで作者・西原理恵子によって都合がよいように脚色され演出された存在だ。その中でももっともいいように使われたのが前夫・鴨志田穣氏だったように私は思っていた。こう見られたいという彼女の願望、彼女のその時々の都合によって、彼は色々な風に描かれてきた。よい話も悪い話も、全て彼に関する事実が反映されているというのはそうだろう。加害者としての鴨志田氏も実際にいたのだろう。

しかしそれは事実ではなく、西原氏の都合によって脚色され演出されたものだ。よく描いている時も、悪く描いている時も、その時の彼女の見られたい自分を提示するための小道具として描いているわけで、鴨志田氏自体を描いているわけではない。

PR

人間・西原理恵子と人間・鴨志田穣の間には互いに色々な想いがあったことだろう。ただ、漫画家・西原理恵子が描いているのは、そういった想いから生まれてくる良いところも悪いところも愛情も憎しみも踏まえた立体的な人間・鴨志田穣の姿ではなく、キャラクター・鴨志田穣がその時々の与えられた役割をはたす姿のように見える。漫画という表現形態の特色というだけではないと感じる。鴨志田氏自身が書いた文章を読んだり、彼が歩んだ軌跡を思い出すたびに哀しい人だったなと思うし、いつも切ない気持ちになる。

彼がやってしまったことで苦しんだ人はいただろうし、許せない人がいるのも仕方ない。ただ、そういう風に生きてしまったこと、生きざるを得なかったことがただ哀しい。

最近、西原氏・鴨志田氏二人の間に生まれた鴨志田ひよ氏(氏は舞台役者であったり、音源にも参加するなど活動している人であり、今回のTwitterでの対応を見るに、人前に出るという意思のもと現在行動していると感じたので名前を記す)のblogがSNS上で話題になった。西原氏のヒット作『毎日かあさん』で描かれていた家族像を否定する、告発めいた内容であった。話題になったエントリーは消去されているが、その他のエントリーからも母や家族に対する想いはうかがうことができる。

ひよ氏の書いたものからは色々なことが読みとれるし、様々な立場の人が言及している。

PR

普遍的な事象をそこに見いだして社会に問題提起することもできるが、それは多くの人がやっているので、自分はそれをやろうとは思わない。自分が彼女の文章から感じたことは、ただ単に自分の意思と関係なく(拒絶しても勝手に)プライベートを晒され続けたということの辛さだけではなく、自分ではない「自分」が勝手に流布され、そういう「自分」として扱われていくことへの恐怖、自分でない何かとして生きていくことを強いられることへの恐怖だ。それは彼女の父がされてきたことだと彼女は感じているし、彼の死後もそれがなされていると感じているだろう。父は彼女にとって大きな支えであり、自分の良き部分の象徴であるのではないだろうか。彼女の抱いている鴨志田氏像が事実と照らし合わせてどうかということはわからない、しかし彼女にとってはそれは生きていくために必要なものなのだろう。

PR

一つのエントリーで、彼女は父と血が繋がってないかもしれないということを書いている。それが事実かどうかとかそんなことはわからないし、彼女が何を理由にそう感じたのかもわからない。ただ、重要なのは彼女がそのような言葉をblogに書き付け、人に読んでもらおうとしたことだ。

大きな支えである父との関係性への不安を吐露してしまうほどの母に対する苛烈で悲痛な感情に対して、私は言語化して解釈しようとすることもできない。ただ、たちすくむだけだ。

 

〈金曜連載〉
画像/毎日かあさん12 母娘(ははこ)つんつか編(毎日新聞出版)

あのちゃんについて:ロマン優光連載145
南部虎弾のお通夜にコロアキ乱入:ロマン優光連載276
百田夏菜子さん、ご結婚おめでとうございます:ロマン優光連載274
アイドルオタクが通りすがりに見たトー横と大久保公園:ロマン優光連載271

PROFILE:
ロマン優光(ろまんゆうこう)
ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。
twitter:@punkuboizz

↓ロマン優光の連載記事・個別記事はこちらから↓

タイトルとURLをコピーしました