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鳥山明死去:ロマン優光連載282

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作品を破壊することなくやり切った

『ドラゴンボール』を読んだことがない人の中には「作者もやりたくてやっていない、読者から見てもそれが透けて見える時のあるような漫画がはたして面白いのだろうか?」と思う人もいるかもしれない。

ところが『ドラゴンボール』はそういう状況でもメチャクチャ面白かったのだ。スタート時の西遊記モチーフの冒険譚の頃から魔人ブウ編にいたるまで、最初から最後まで面白い漫画だった。 

何より出てくるキャラクターが魅力的だった。 『ドラゴンボール』という作品は後のバトル漫画に大きな影響を与えてきた作品であり、その中の一つに「純粋戦闘マニアの主人公」という発明がある。サイヤ人編以降はやりたいことをやっているというより、求められたことをやっているほうが強い状態だったと思うのだけれど、そういう中でも、ベジータにしろ、フリーザにしろ、非常に魅力的な悪役だった。ああいうわかりやすい(もちろん良い意味だ)キャラクターを産み出す一方で、16号のようなわかりにくい(もちろん良い意味だ)魅力的なキャラクターも産みだしていた。

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最終章である魔人ブウ編はギャグが多めでのんきなムードもあったり、本来の『ドラゴンボール』というか鳥山明先生らしい部分が出ている。そういう細かい話はさておき、魔人ブウ編の凄いところは、ミスター・サタンがいなければ地球は救えなかった、実質的に地球を救ったのは史上最強の純粋戦闘マニア・孫悟空ではなく、あまり強くなく傲慢でセコく色々勘違いしているが根っ子のところでは正義感を持つ男・ミスター・サタンだったというところである。いや、魔人ブウ編でのミスター・サタンはただのコメディリリーフではなく裏の主人公みたいなところもあり、単なるコミカルな勘違い叔父さんをあそこまで成長させたのは先生の才能だし、あの延々と続いたバトルの連鎖のラストバトルのキーマンがミスター・サタンであるということは本当に素敵なことだ。 

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鳥山先生が『ドラゴンボール』の連載を辞めたくても辞められずに苦しんでいたという話を見聞きするたびに「おのれ、マシリトの奴!」と思うのだが、編集者・鳥嶋和彦氏に見つからなければ先生は漫画家になってなかったのではないかという気もする。また、出版社、テレビ局、玩具会社の大人の事情があるわけで、鳥嶋氏の一存でどうかという話ではないのもわかる。また『ドラゴンボール』という作品と過ごした長い時間とそこでの経験がなければ、後の『カジカ』『SAND LAND』のような良質な児童文学のようなファンタジー作品も、あの完成度の高さでは産まれなかったのではないだろうか。だからといって辞めたいのに辞めさせなかったのがいいわけがない。なんというか、世の中は単純でなく、良い悪いだけで結果が生まれるわけではないから難しい。

漫画家にならなかったら先生はどういう人生を歩んでいたのだろう。あれだけの絵の才能があった人だからイラストレーターとして、そこからデザイナーとして成功したかもしれない。しかし、先生のセンスが本格的に開花したのは、デビュー前に鳥嶋氏の元でボツにされ続けながら年間500頁も原稿を描いたことにある気もするので何とも言えない。 

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