第10回 轟太一(『虎に翼』の登場キャラ)
欧米で10年代から使われるようになった「woke」というスラングをご存じだろうか。
全雑誌の中で最も知性が高くて最も上品で最も教養のある『実話BUNKA超タブー』の読者の皆様に今さら説明するのも野暮とは思うが、直訳すると「目覚めた」ということであり、転じて「社会問題に対する意識が高い」という意味である。日本だと目覚め・気付き≒参政党チックなヤバい陰謀論に巻き込まれジャンボタニシを田んぼにブチ込みまくる、という印象なのだが、さすがポリコレ大国である欧米様は違う。かつて各地で殺戮と略奪と征服を繰り広げただけあって、それで利益が出たおつり分、今や人権や平等は命より大切なのだろう。
という具合に意識が高いと聞くと多少おちょくりたくなるのが人間の性である。実際、10年代ではポジティブな意味で使われていたこのwokeという単語、20年代になるとあっという間に日本でいう「意識高い系」「ポリコレ」と同じく、ネガティブな方向性で多用されるようになった。主に右派がリベラルを揶揄する場合に使われる。業深い。
さて。先日大団円を迎えたNHK朝ドラ『虎に翼』は、それこそ近年稀に見るwokeドラマだった。
日本で初めて女性弁護士・判事を勤めた三淵嘉子をモデルにして、戦前から70年代までを描いている。この時代の日本は完全に男尊女卑、とまでは言わないまでも、家父長制が当たり前だった。よって当然中心となるのは女性差別・権利問題なのだが、このドラマはそこだけにとどまらない。少年法、在日朝鮮人問題、原爆裁判、身体障碍者、夫婦別姓問題、同性愛者まで入れて、woke一式お得な詰め合わせセットとなっている。
そう。このドラマには、同性愛者が登場するのである。
轟太一という登場人物がいる。登場した当初は名前通り勇ましく、口髭下駄履き学生帽のバンカラでゲイの片鱗もなかったため、戦後帰国して旧友の死に崩れ落ち彼への同性愛感情を自覚ないまま口にしたときは意外過ぎて視聴者全員と腐女子の叫び声が響いた。そしてドラマが進むにつれ、彼はちゃんとした同性パートナーを作り、立派なゲイとなってしまった。自分に素直に生きることができて、まあ、めでたいことである。