彼の死後に語られるエピソードが、どれも過激なまでの他人に対するさりげない優しさが伝わってくる話ばかりで、これはモテるだろうし、性別年齢彼の立場関係なく愛されるだろうなと再確認させられる。『にっぽん縦断 こころ旅』はそういった部分が生かされた企画だったのだろう。
自分から別れたことはなく相手にいつも愛想をつかされると言っていたが「それはそうなるだろう」と思うし、少しズルいなとも、本当に勝手だなとも思う。それでも、そこで恨みをかわないのが火野正平の魅力だったのだろうし、彼の凄さだ。
彼だって人間なのだから、もしかしたら別の側面を伝えるエピソードが出てくるかもしれない。もし、そういうことがあったとしても彼の優しさが嘘だったとかいうことにはならないし、他の誰があそこまで他人に優しさを他人に見せることができるだろう。まず根底に優しさがあって、何か狙いがあって他人に優しくするようなことはなかったのではないか。誰に対しても優しいのは場合によっては罪でもあるのだけど。
過去に関係があった女性同士が浮気されていたという共通の話題で盛り上がり、結局、なんだかんだで憎めないし、火野だから仕方ないと会話するというエピソードに憧れる男性もいるだろうが、あんなのは火野正平だからありえた話。彼の生き方を他の人が真似ても、あんなふうにはならないので止めた方がいい。あの時代だから、火野正平だから成立したことであって、そこに夢はみないほうがいいと思う。時代も違うし、我々は彼のような特異な存在でもないのだから。