ところがSNSなら、元々フォロワーを持っている人や、いわゆる「バズる」投稿なら簡単に1万人、場合によっては10万人を超える人に自分の投稿を見てもらうことができ、有料広告を使えば、100万回、200万回の表示を労せずして得ることができます。そしてこの表示は、ビラとは違って、確実に見てくれた数であるばかりか、何に興味を持っている、どのような属性(年齢、男女など)の人が、何秒くらい見て、その何%が最終的にLP(Landing Page)をクリックしてくれたかまで分析して次の投稿に反映することができるうえ、一度でも投稿を見てくれた人は、アルゴリズムによるお勧めで、囲い込むことまで可能なのです。
物騒なたとえで恐縮ですが、今までの集会や街頭演説を槍や刀を使った対面での地上戦だとすれば、SNSは、狙った多くの相手にピンポイントで情報を届けうる、精密誘導弾による空中戦のようなものだと私は思います。参政党、国民民主党といった新興政党は、地上戦での戦力不足を補う意味もあって、SNSのその特性を十二分に生かした空中戦を展開し、制空権を獲得していたのです。
一方で、我が立憲民主党や自民党といった既存政党は、なまじ地上戦の戦力があるためか、SNSによる空中戦への理解が乏しく、見る人の特性に合わせた発信よりも、自分たちが正しいと思う情報を決め打ちで発信する、いわば所かまわず大砲をぶっ放すような戦法が取られていたように思います。
結局今回の参議院選挙は、新興政党が、新興ゆえの身軽さと革新性でSNSという精密誘導弾を十二分に生かした空中戦を展開したのに対し、なまじ地上戦力のある既存政党は、槍と刀による地上戦と、火力を使う場合も闇雲に大砲をぶっ放す従前の戦法に終始していたようなものであり、この結果は理の必然であったと、私は思います。
大砲を駆使してヨーロッパを席捲したナポレオンのように、新兵器とそれを駆使する勢力の登場によって歴史が大きく変わった例は古来より枚挙に暇がありません。自民党、立憲民主党の既存政党がこの変化に対応できるのか、それともSNSを駆使する新興政党にとって代わられるのか、SNSが政治にもたらす地殻変動の成り行きが注目されます。
文/米山隆一
初出/実話BUNKA超タブー2025年9月号
PROFILE:
米山隆一(よねやま・りゅういち)
1967年生まれ。新潟県出身。東京大学医学部卒業。独立行政法人放射線医学総合研究所、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究員、おおかた総合法律事務所代表弁護士などを経て、2016年10月に新潟県知事就任。2021年10月、衆議院議員選挙にて旧新潟5区で初当選。立憲民主党所属。
Twitter @RyuichiYoneyama