2025年というのはそんな現代だがこの作品が作られた1970年代はまだすべての出会いにあらゆる可能性があった。
村野武範は結城しのぶのことが大嫌いだった。金持ちのお高くとまったお嬢様気取り。暮らす世界が違う。お互いにそう思っていた出会いであった。お互いに不快な出会いであった。だが1970年代にはゆったりとした時間があった。SNSもなければネットもないので自分が体験したその日一日の出来事をじっくり考える時間があった。電話料金も高ければ携帯電話もなくメールもラインもないので自分ひとりで考える時間があった。誰かと思いを共有することはめったになかった。テレビドラマを見ていて、おもしろいと思えば「おもしろい」と書き込んで表現しなければ気が済まない2025年は苦しい。自分の思いをSNSで検索して多数派ならば安心する2025年は哀しい。おもしろいのかおもしろくないのか、テレビのワイプ画面に映る出演者の表情を見て探る2025年は絶望的だ。そこにはもうなにもない。少なくともロマンチックなものはない。
村野武範も結城しのぶも、誰にも相談することなく自分の気持ちを持った。そして育てた。大嫌いだった相手のことが違って見えてきた。恋愛感情の誕生であった。
(この項、つづく)
『青春の甘き香り』
出演/村野武範、結城しのぶ、杉本美樹、森みつる、明石勤、河原裕昌、堺佐千夫、関戸純、岡本麗、石山雄大、鶴岡修、頭師孝雄、鈴木瑞穂
脚本/野上龍雄、森崎東、宮川一郎、下飯坂菊馬、安部徹郎、ほか
音楽/荒木一郎
主題歌/「回り舞台の上で」作詞・作曲/荒木一郎 編曲/林哲司
監督/森崎東、長谷和夫、ほか
脚本/野上龍雄、森崎東、宮川一郎、下飯坂菊馬、安部徹郎、ほか
音楽/荒木一郎
主題歌/「回り舞台の上で」作詞・作曲/荒木一郎 編曲/林哲司
監督/森崎東、長谷和夫、ほか
※杉作さんの新刊『あーしはDJ』(イーストプレス)が発売中!
<隔週金曜日掲載>
画像/『青春の甘き香り』のタイトルロゴ
PROFILE:
杉作J太郎(すぎさく・じぇいたろう)
漫画家。愛媛県松山市出身。自身が局長を務める(男の墓場改め)狼の墓場プロダクション発行のメルマガ、現代芸術マガジンは週2回更新中。著書に『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』『杉作J太郎が考えたこと』など。
twitter:@OOKAMINOHAKABA



