漫画好きの識者の方々に、思い入れのある泣ける漫画を挙げてもらった!
PROFILE:
白正男(はく・まさお)
職業:義士、漫画原作者。出身成分:核心階層(抗日戦士)。正しい歴史認識と人権思想を啓蒙するため、本誌連載作品『テコンダー朴』の原作を担当。
X:@hakubaek31、@taekwondo5000
雁屋哲の「老い」
『美味しんぼ』の海原雄山と山岡士郎の親子和解は、間違いなく「泣ける」名場面だ。だが、自分が泣けるのは別の理由からである。初期の雄山は、権威を振りかざし妻を虐待する非道な人物であり、士郎が家を飛び出した元凶だった。しかし長期連載の中で、雄山は深い慈愛を持つ人格者へと路線変更されていく。この変化の背景にあるのは、作者・雁屋哲の「老い」ではないか。若き日の雁屋は、権威に抗い戦う若者を数多く描いてきた。しかし『美味しんぼ』の成功によって、自らが巨大な「権威」となった。そして年齢を重ねるにつれ、その心境は反抗する青年・士郎から、老いゆく父・雄山へと寄り添っていったように見える。反逆する側ではなく、守る側の視点へと心境が移っていったのだろうか。親子の和解はもちろん泣ける。だが、自分が本当に涙を誘われるのは、成功と加齢によって作者自身が変わっていく、その歳月である。雁屋哲は老いた。その事実こそ、自分にとって何より泣ける。
格闘漫画『アビスレイジ』の魅力は、主人公ではなくラスボス・真神の存在だ。スキンヘッドのオカマという強烈なビジュアル。異形にして最強の格闘家だが、その根底にはあまりに切ない「愛への渇望」があった。明かされる哀しき過去と、戦いの果てに迎える壮絶な結末。最後に見せるわずかな救いに、悪役の最期ながら涙を禁じ得ない。
同じ作者の格闘漫画『無敵のスバル』で泣けるのは、脇役の穂先正近の生き様だ。天才主人公に踏みつけられる噛ませ犬と思いきや、描かれるのは凡人ゆえの血の滲む努力と意地。その凡人の矜持に、思わず涙がこぼれる。

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文/白正男
画像/『美味しんぼ』102(原作:雁屋哲,作画:花咲アキラ/小学館)
初出/『実話BUNKA超タブー』2026年9月号
