309回 『極悪女王』
今、話題のNetflixで配信されているゆりやんレトリィバァ主演、企画・脚本・プロデュース ・ 鈴木おさむ、総監督・白石和彌によるドラマ『極悪女王』。ゆりやんが演じる実在のプロレスラー・ダンプ松本を主役とした一種の成長譚であり、実質「もう一人の主役」である長与千種とのシスターフッドの物語でもある。
面白いドラマである。二人の所属した全日本女子プロレス(ドラマ内では全日女子プロレス)の歴史をベースに、実際に起こった出来事を取捨選択して切り取り、それを上手くアレンジして繋ぎ合わせ、少女たちのシスターフッドの物語を成立させている。若き女性だけの世界であるかのように思われる女子プロレスの世界も、実際には背後にいる権力を持った男性運営にいいように支配され上手く使われている世界であり、悪役プロレスラーとして成り上がっていく様子が自分を取り巻くそういった世界との闘いに繋がっていく。プロレスの世界を舞台としているというだけではなく、このドラマは少女たちの様々なものから解放されるための闘いのドラマだ。
恵まれない家庭環境に育った少女・松本香がビューティーペアにあこがれ、華やかな女子プロレスの世界を目指す。オーディションに合格したものの落ちこぼれ、同じ落ちこぼれであり恵まれない家庭環境で育った同期の長与千種と共に不遇の時代を過ごしながら友情を育てる。やがて長与は頭角を現し、同期の優等生であったライオネス飛鳥とクラッシュギャルズを結成しスターの道へ。長与に置いてけぼりにされた寂しさ・くやしさ、家族との軋轢、不甲斐ない自分自身と焦燥感。その果てに悪役レスラー・ダンプ松本として新しい自分を見出し、稀代の悪役レスラーとしての躍進が始まる。
ストーリー自体はシンプルでわかりやすい。それに説得力を与えているのが、実在の人物を演じるという難しい事柄に取り組んだ出演者の演技とプロレスシーンの迫力、セットや衣装などの再現度の高さである。
実在の人物を俳優が演じる場合、本人とのイメージのギャップを感じることは多い。しかし、この作品では、ほぼ全ての登場人物にそれがない。ダンプや長与のような著名で表に出ている著名な人物だけではなく、全女の経営者一族である松永兄弟のような裏方も本人インタビュー・選手や関係者から語られてきた逸話によって形成されたイメージ通りの人物として、我々の前に現れる。