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北野武監督作『首』は面白い:ロマン優光連載268

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歴史考証は変ではない

織田家の重鎮である柴田勝家が劇中に登場しないことに対して疑問を持つ人もいるが、劇中起こった出来事を考えると、それらの時期は柴田は北陸方面で軍事行動をしていて畿内にはほぼおらず、登場してこなくても不自然ではない。滝川一益も丹羽長秀もあの時期にあの地域で活動していたから登場することになっただけだろう。劇中に取り上げられた実在の出来事で、柴田が居合わせたのが確実なのは京都御馬揃え(記録では柴田は北陸から帰ってきて参加したが秀吉は戦場にいて参加していない)ぐらいしかわからないが、資料を細かくあたればもっとあるかもしれない。しかし、物語上も柴田を出す必然性(あの物語で柴田が果たす役割はないだろう)は感じられないので、登場しなくても不思議ではないし、無理に登場させる必要はないだろう。

基本的に歴史考証がしっかりされていることがうかがえる作品で、実際の出来事の時系列通りに物語は無理なく進むし、有名な逸話(事実ではない場合もある)もうまくアレンジしていたり、よく資料を調べている。黒田官兵衛の脚が不自由になった理由をさらりと会話にいれてきたりするところとか、よくできていると思った。その上で細かく「嘘」を入れたり、事実かどうかはっきりわからない事柄やその人が何をやっていたかよくわからない空白の時期(たとえば荒木村重や千利休)に独自の解釈を入れたり、曽呂利新左衛門のように実在したかどうかわからず履歴もはっきりしない人物や難波茂助のような架空の人物をうまく狂言回しに使ったりして、物語を膨らませているのだ。

物語上の明らかな「嘘」で一番大きなものは登場人物の年齢である。実在する主要登場武将の生年は明智光秀(1528もしくは1516)、織田信長(1534)、荒木村重(1535)、羽柴秀吉(1537)、徳川家康(1543)で、劇中の本能寺の変(1582)時は光秀52歳(もしくは64歳)、信長48歳、村重49歳、秀吉45歳、家康39歳。村重に関しては、演ずる遠藤憲一は60代であるが十分にその年代の人間に見える演技をしていたと思う。気になるのは家康である、秀吉が老人なのはメタ的な解釈で違和感は消えたが、演者の小林薫の年齢はさておいても、劇中の家康のイメージ自体が老人なのには違和感があった。しかし、一般的には家康のイメージといえば後年のタヌキ親父のイメージが強い。織田家に非常に気を使っている同盟者、武闘派の律儀者みたいな中年といった当時の家康のイメージに忠実な人間が出てきても、大方の人にとっては違和感しかないだろう。家康が気の毒な気がしないでもないが、そう考えるとあれでいいのだと思う。『首』は歴史上の事実をもとにしたフィクションであって、歴史書ではないのだから。

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逆に自分の中では年輩のイメージが強い光秀。劇中では『仮面ライダーBLACK SUN』では南光太郎をつとめた西島秀俊が演じている。1528年生まれ説をとるなら、演ずる西島とほぼ同年齢なわけだが、西島が若々しくかっこいいので光秀がなんだか得をしているような気がする。「西島秀俊の出演作はもっと他に色々あるだろう!無知!」という声もあるかと思うが、『BLACK SUN』が好きでことあるごとに名前を出したいのでわざと書いているのであり、知らないとかそういう話ではないので、わざわざ西島秀俊さんの評価の高い他の出演作品を教えてくれなくてもけっこうです。

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