別の八百屋のお年寄りは「クルド人だからって特に買い占めていく野菜はないかしらね~。まあいい人もたくさんいるし、普通の人もいるし。たまに悪い人もいるけど、普通の感じよね~」とのこと。移民も地元の人も、ゆるく混ざり合って暮らしており、マスコミが騒ぐほどの対立には至っていないようだ。
それからクルド人が住んでいるアパートの前を通りかかると、玄関先にはピカピカに磨かれた子どもの三輪車があり、洗濯物は真っ白で、ぴしっと干されていた。生活に余裕がない家庭では雑に干された洗濯物はシミだらけ。子どもの面倒を見ない家は、オモチャや乗り物がドロドロのまま放置されるのが常だ。隣近所をかなり気にし、丁寧に生活しているのだろう。大半のクルド人がひっそりと暮らしているらしい。
日が落ちてから近隣住民の苦情が寄せられていると話題の“水タバコバー”の近くも通ったが、トルコによくあるバーで、漏れてくる音も実に小さなもの。欧州に住んでいる筆者の感覚からすると何が問題なのかよくわからなかった。
ただ、そこはかなり保守的な雰囲気の昭和な住宅地で、高齢者もかなり多く、店もほとんどない。そんな街にいきなり外国人だらけのバーができたのだから、地元民はかなり驚いただろう。ドイツの厳粛な感じの街中に、突然外国人向けの開放的な飲み屋ができた感じだ。欧州でも音や景観の感覚が違えば、地元民と移民との間に軋轢が生じやすい。
地元民を冷遇する海外の移民
今回の取材を通してもっとも驚いたのが、蕨も川口も、外国人が多い地域と日本人の住んでいる地域が混在している点だ。実は、他国では移民地帯と地元の人が住む地域は、はっきり分かれてしまうケースがほとんど。なかには、現地人はほぼ進入禁止状態になっているエリアもある。
たとえば、フランスのリヨン。リヨン中心部を流れる川の手前側は、旧市街で、フランスの昔ながらのオシャレタウンだ。ミシュラン星付きレストランもあり、ハイセンスなブティックや知的な本屋、美食の店が並ぶ。
ところが、筆者が安いSIMカードを買うために川の反対側にある安いモノが売っていそうな地域に足を踏み入れたときは、ドン引きした。なんと、そこに広がっていたのは完全なるアラブ人街だったのだ。
外国人というか“アラブ人以外は来てはならない”という暗黙の掟があるらしく、歩いているだけでジロジロ見られ、看板はアラビア語だらけ。川向うのフランス人地域には一切ない、アラブ人御用達の服屋やタライを売っている雑貨屋などがあり、景観も雑然としている。そこに白人フランス人の姿はない。地元民は、このような地域の分断があることを知っているが、口出しすることもない。