寅子は男性差別には興味なし?
徴兵制がドラマ内で描かれだした当初、寅子は相変わらず女性が虐げられる側としての男女不平等を嘆き、徴兵される男性の同級生男性が、徴兵されることによってその分女性に負担がかかると寅子に話したりするなど、徴兵制もあくまでもそれに女性がどう影響を受けるかの問題であり、徴兵される男性側に焦点が当たることはありませんでした。しかし物語は寅子の兄、そして夫・優三が相次いで徴兵され、両者とも戦地で亡くなるという展開を見せます。
これによって、男性だけが徴兵されるというシステムに寅子が疑問を感じ、そこからも男女差というものを寅子が考えるというような描写が当然あるものと思っていました。が、寅子は兄や夫・優三の死を悲しみはするものの、話は日本国憲法の導入に移っていき、男女平等が憲法に明記された社会の中で、どう寅子が活躍するかという内容になっていきます。これにはとんだ肩透かしを喰らいました。女性への差別に関しては、現代女性と同じ水準で敏感な寅子が、夫の死に直面したにも関わらず、夫を死に追いやった徴兵制という圧倒的に男性が虐げられるシステムについては、何一つ疑問を感じないまま、話が次の展開に移っていくとはどういうことなのでしょう。
別に男女共に徴兵制が適用されるべきだ、と寅子は考えるべきだなどとは思いませんが、少なくとも男女差をテーマにするにあたって、物語に徴兵制が出てくるということは、単に女性=差別される側、男性=差別する側という一面的な問題提起ではなく、もっと複雑な男女差という問題を描くものだとばかり思っていたのが、そこは完全にスルーされることになったのです。寅子は高等試験に合格した祝賀会の席で、男女関係なく困っている人を救いたいと熱弁しましたが、本当に寅子の救いたい人の中には男性も入っているのでしょうか。今後の展開を見守るしかありません。
文/田崎寿司郎
画像/『連続テレビ小説 虎に翼 Part1(NHKドラマ・ガイド)』(NHK出版)