誰かの声が聞こえた。
「さすが元トップ屋だなー」
梶間さんは映画監督になる前、映画の世界に入る前、雑誌記者だったのだ。それは陰口ではないと思った。石井さんを送る日に相応しいなにか特別な、クライマックス的ななにかであった。
内藤誠さんが大きな声で俺を捕まえた。探してたんだよ、言っておくことがあるんだ、そう言って内藤さんは続けた。
「お前、リリー・フランキーの東京タワー読んだか」
「いや、まだ読んでないです」
「お前、リリーと仲いいよな」
「まあ」
「あれの映画化権をもらえ。お前だったらくれるだろう」
「いや、でもまだ読んでないし」
「あれはいい、すごくいいぞ」
「うち(墓場プロ)が撮るかんじのものなんですか?」
内藤さんはなに言ってるんだという感じに顔をしかめて活字だったら太ゴシックで言った。
「なに言ってるんだよ、お前が撮るんじゃない! どこかが必ず撮る! そのときお前が映画化権を転売するんだ! いいか、金というのはそうやって作るんだッ!」
「は、はい」
内藤さんは東映時代、「網走番外地」などで石井さんを支えた助監督にしてだけでなく石井さんとの繋がりは深い。送る会はまだはじまっておらず会場には誰もが知ってる俳優さん、映画関係者が続々集まってきていた。梶間さんは走り回っていた(たぶんこの日は最後まで)。
内藤誠さんといえばもしかしたら初めてご本人をお見かけした時もその声は太ゴシックだった。あれはいまはなき東京現像所だっただろうか。石井輝男監督14年ぶりの劇映画「ゲンセンカン主人」(1993年)のゼロ号試写だった。この項、つづく。
『現代任侠史』(1973年・東映京都)
企画/橋本慶一、日下部五朗、佐藤雅夫
脚本/橋本忍
撮影/古谷伸
照明/増田悦章
録音/溝口正義
美術/鈴木孝俊
助監督/皆川隆之
進行主任/俵坂孝宏
編集/宮本信太郎
擬斗/上野隆三
アームス・テクニカル・アドバイザー/トビー・門口、トビー・村添
音楽/木下忠司
監督/石井輝男
<隔週金曜日掲載>
画像/『現代任侠史』DVDパッケージ
PROFILE:
杉作J太郎(すぎさく・じぇいたろう)
漫画家。愛媛県松山市出身。自身が局長を務める(男の墓場改め)狼の墓場プロダクション発行のメルマガ、現代芸術マガジンは週2回更新中。著書に『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』『杉作J太郎が考えたこと』など。
twitter:@OTOKONOHAKABA