そのころ、ヒップホップがブームになっていて芸能人やお笑いタレントがラップをしたりしていた。それと同じには見られたくなかった。どうせやるなら本格派で行きたかった。ちゃんと下積みして修業したかった。それはダースレイダーさんや宇多丸さんも同じ気持ちだった。タレントのにわかラップに協力しているのではない、と言っていた、ように思う。
クラブ回りもたくさんした。
どんだけまじめにやってるつもりでも遊び半分でやってるように捉える人もいたはずで、ま、それはしかたない。つらい思いもよくした。がまんした。
渋谷だったか三宿だったか代官山だったか、その日もクラブで新人のラッパーとしてマイクを握っていた。
ヒップホップの世界では先輩にあたる、ひとりのラッパーが私に話しかけてきた。年齢は私より明らかに若いが見た目も雰囲気も明らかに先輩である。
怖い顔つきの、いかつい男だったのでなんらかの教育的指導があるのかと思ったら彼は言った。
「兄がお世話になりました」
「え?」
ひさしぶりに聞いた。カルトQ。やくざ映画大会。そのときにいっしょに回答者として参加していた人(たしか私が二位でその人が三位? 逆かもしれない)、現場で話が弾んだことを覚えているひとだった。その弟だったのだ。以下次号。