――20年越しに新事実が! 『レッツゴー武芸帖』の新装版はいしかわじゅんさんの後書きも強烈ですよね。
よしもと これオリジナル版は表紙自分で描いてるんですけど、新装版は誰だか知らない人が描いてるんですよ。「その辺の美大生に描かせてみよう」って。これ刀曲がっちゃってるし(笑)。『レッツゴー武芸帖』は連載してみたらアンケート調査で最下位で終了、けどまあ貯金も貯まってたんでイギリスで1カ月ほど放浪生活をしました。帰ってきたらすごい物事を俯瞰で見られるようになっていて、意識がだいぶ変わったんですね。それでラストをかなり加筆して描き直して、それで単行本を出したらわりと評判が良かったんです。で、次は怪獣モノを描きたいってなって。
――また編集者が「えー?」ってなったことでしょう(笑)。
よしもと 『レッツゴー武芸帖』は毎回20ページくらいの連載ですごいしんどかったんで、『東京防衛軍』は8ページ連載にしてもらいました。怪獣の造形が怪獣っぽいよりも、ハニワ顔とか、巨大な1円玉とか、なんかそういう怪獣的じゃない、物体的なほうがわけわかんなくて良いよなと思ってたんですが。エヴァンゲリオンを観た時に庵野秀明さんは自分とすごい感覚が似てるのかなって思いました。庵野さんはものすごいいろんなものを見てる人だと思うけど、何か自分と近いものに影響を受けているのかなとか。俺の原点はイギリスのテレビシリーズ『プリズナーNo.6』の白い変な風船が追っかけてくるシーンです。そういう巨大な物体って気持ち悪いんですよね。
――漫画を描く時って音楽は聴かれますか? ネームの時は無理だと思うんですけど。
よしもと ネームの時は聴かないことが多いかな。ペン入れの時は同じアルバムを延々と一日中聴いていて、「青い車」だったらローリングストーンズの『レット・イット・ブリード』をずっと聴いてました。音楽を聴くことによって、空気というか、感情をキープさせるような。「青い車」を描いたときはアシスタントの人たちと6畳でひしめき合って、みんなタバコ吸ったりするからすごい状態になるんですけど、リクエストもらって曲かけたりとか、賑やかにやってました。
――よしもとさんの漫画は音楽が聞こえてくる感じがしますよね。90年代のある日の音楽にまつわる思い出ってありますか?
よしもと 街中で音楽に出会った瞬間は、情景ごとすごく記憶に残ってます。たとえばサニーデイ・サービスをちゃんと聴いたのは『恋におちたら』のシングルが出た時で、タワレコで大展開してて、視聴機で聴いてちょっと呆然となりましたね。「これはすげー!」って。その時のタワレコの空気感とか、光の感じとかをめちゃめちゃ覚えてます。
――最近はすぐにサブスクで調べて聴けるのもあって、そういう体験をあまりしてない気がします。
よしもと 本を本屋さんで買った時のことを覚えてるのに近いものがあるんじゃないかな。
――本屋さんで買った本って、買った時の本屋さんの様子とかも思い出しますよね。復刊した『青い車』も本屋さんで出会って買ってほしい気持ちになります。
よしもと 来年はさっき話した合作とか、短編とか単行本になってないやつを全部まとめたいと思っているので、『青い車』復刊に続く第2弾として紙の本で出せたらいいなと考えてます。
取材・構成/姫乃たま
初出/実話BUNKAタブー2025年11月号