鶴岡八幡宮での右大臣拝賀の際に実朝を切りつけて、首を獲ったのは、頼家の子・公暁だった。公暁は実朝の首を皆の前で掲げ、「父の仇を討ち取った！ これで俺が将軍だ!!」と叫んだという。このとき、実朝と共に殺されたのは源仲章という御家人。実朝の脇で警護する役回りだったのだが、実はその位置には本来、義時がいるはずで、公暁としては義時と間違って仲章を殺してしまったという。
義時がなぜ仲章と代わったのかというと、拝賀に出る直前に体調が悪くなったからだった。幸いにも命を救われた義時は当然、公暁を成敗。源氏正統の将軍が暗殺されたことで動揺した源氏の残党たちが慌てて将軍の座を求めて挙兵したが、敢えなく返り討ちにされる。わずかに残された者たちも公暁に加担したとして殺されて、鎌倉には源氏の有力者がほぼいなくなり、頼朝の妹のひ孫にあたる藤原頼経を鎌倉に迎え入れたのだ。
ちなみに頼経は当時、数えで2歳。そのため、政子が後見人として鎌倉殿の地位を代行し、義時がこれを補佐するという体制で、完全なる北条氏による執権政治が確立した。
……と、まあ、流れをお話したが、いろいろと都合が良すぎる。
最もおかしいのは義時がベストなタイミングで体調が悪くなったこと。もし、このとき義時が殺されていたとしたら、公暁が将軍になった。公暁は義時がいるはずの場所を知っていたから、内部リークがあったはずだ。その上、実朝と義時さえ殺せば、将軍になれるとそそのかされたからこそ、大衆の前で首を掲げて将軍宣言まで行ったのであろう。むしろ内部リークというよりも、誰かの進言に違いない。ちなみに公暁は三浦義村に相談していたという話がある。義村を使って、公暁をそそのかせ、実朝を暗殺することで得する人物による策略。
