その結果、親などは、逆に所得税や住民税の負担が増して、家族全体では収支がマイナスになってしまうというわけだ。 こうしたことから、学生やフリーター、パートで働く人たちは、税負担を避けようと1年が終わる年末に、その年の収入を必死で合算し、103万円を超えないように労働時間を調整する。親も、扶養している息子や娘に連絡を入れ、「103万を超えてないだろうな。調整してくれよ。超えるとこっちの免除がなくなって税金を払わなきゃならなくなる」とバイトにストップをかけてくるのだ。
103万円という金額は、適用された1995年以降、物価が上がっても、最低賃金を上げても実に30年もの間、変わっていない。その時代の経済状況や個人の収入、控除とのバランスなどから算定されているのだ。
前述したように、学生やフリーター、パートで働く人たちは、税負担を避けようと年末には103万円を超えないように労働時間を調整する。すると、じつは常に頭を抱えてきたのは彼らを雇っている飲食店など雇う側だ。バイトやパートが主力の飲食店は、年末は人手不足になってしまい、営業そのものに支障が出る要因になってきた。
「103万円の壁があることで、忘年会シーズンにシフトが穴だらけになり、店内のオペレーションが回せなくなってしまう。時間帯によっては席が空いていてもお客さまの来店をお断りすることもあるんです」(東京港区新橋の居酒屋チェーン店店長)
若者やパートや飲食店などが長く直面してきた103万円の壁が撤廃され、金額のラインが上がるとどうなるか。冒頭の経済アナリストはこう説明する。
「やはり大きいのは、所得税を非課税とするための働き控えがなくなること。そうすれば、働き手側は手取りも増え、収入を上げることができるし、その結果、増えた収入を使って、それまで我慢していたものを買ったり、旅行したりと経済を回すことにもなる。企業側も、人財が増えることでオペレーションを回しやすくなるし、これまで103万円を超えるからと時給も抑えてきたがバイトを集めるために時給を上げることも可能になる。壁を壊して上限を上げることは、それなりに様々な面で効果は期待できる」
手取りも増え、雇う側も万々歳……。しかし、そんなにおいしい話だけで終わるはずがない。
106万円と130万円の壁
103万円の次に、いま政治の議論の中で出てきているのが、「106万円の壁」。そして「130万円の壁」だ。 同じ「壁」ということで、一見繋がっている話に見えるが、じつは「103万円」
と「106万円」「130万円」はまったく次元が違う。