梶原 「金輪際現れない一番星の生まれ変わり」という歌詞が、保守のアイドルだった安倍元総理を想起させますし、「嘘か本当か知り得ない そんな言葉にまた一人堕ちる」「愛してるって嘘で積むキャリア これこそ私なりの愛だ」って歌詞を聴くと、本当に安倍さんのことだなあと思うんですよね。安倍さんの第二次政権では、女性活躍とか賃金上昇とか結構リベラルな政策をやっているんです。国際政治でも戦後秩序を守るためにトランプを抑えていたって論があるぐらいリベラルなんです。でも安倍さんは保守側のコアな支持者を惹きつけておくために「右派をやっています」って振る舞って、左翼から叩かせておいて、でも日韓合意とか保守的じゃないこともやったし「戦後70年談話」なんて安倍さんが本来言ってきたことは最小限ですよね。抑えに抑えて針の穴を通すように合意を取ってるから、保守の人は本当はもっと「こんなんでお前満足してるのか」って怒らなきゃいけないんですよ。でも安倍さんはそれをキャラクターによって言わせないわけです。
――梶原さんは怒ってたんですか?
梶原 私はすごい右寄りだから、安倍政権が本物ならもっとやれるだろうって思ってました。でも大半の保守の人たちは「安倍さんだからここまでできた」って思っているし、彼ならやってくれるって期待をずっと持たせたまま政権を終えているので、その見せ方がやっぱりすごいなっていう意味で『アイドル』の歌詞と重なるんです。
――その安倍さんの振る舞いによって、当時は右派と左派が激しく対立していたと思うのですが、いまはどうなっているのでしょうか?
梶原 いまはもう散り散りになってますね。安倍さんがいた時は別に右でもない人も、安倍批判をおかしいと思って右側に入っていたり、安倍さんは支持してないけど経済政策は良いと思っていた人も右側にいたけど、同じ右でも元々は立ち位置がみんな違うからいまは喧嘩している。その後の岸田政権になってからは左側からの批判もすごい弱くて、もちろん批判してる人もいましたけど、安倍さんの時みたいに国会前に集まってくるとかは全然ないじゃないですか。岸田政権は国策や安全保障のプランも基本的に安倍さんから継承していたんですけど、岸田さんのイメージがリベラルなので、むしろ右からめちゃくちゃ叩かれていて、でも岸田政権は「防衛3文書」も通してるんですよね。安倍さんが同じことを言うと危険に見えちゃうのに、岸田さんはイメージがリベラルだから許されちゃうんだと思います。
――石破さんになってからはどうですか?
梶原 石破さんは安倍批判をしていたので、安倍政権と同じ外交政策をやってもものすごい右から批判されていますけど、本来の思想は石破さんのほうが安倍さんより右なんですよ。思想的には対米従属を脱して自立したほうがいいって人なので。でもなんかイメージと実際のズレがあって、右も左もわけわかんない状態になってますね。
――いまの混乱を呼んだ安倍さんの死についてはどう思っていますか?
梶原 自分の心境としては正直に言うと、犯人に対して「余計なことしやがった」っていう感じです。これで安倍さんは支持層からはより神格化されちゃうし、正当な安倍政権の評価が右からはもう出てこなくなっちゃったなっていうのが、犯人に対して一番「あの野郎」って思っているところです。結局、安倍さんは悲劇の人になっちゃったわけだから。
――月刊『Hanada』でもメモリアル写真集を作ってましたね。