雑誌の記事、ネットの書き込み、インタビューの起こし等が語り手の手記にはさまれるという構成のモキュメンタリ―ホラーであり、カクヨム版、単行本版、文庫版と内容が異なっている。作中の記事などは共有しているものが多いが、新しい設定が追加されたり消されたり、同一内容に見えてよく読むと細かい違いがあるものもある。文庫版では語り手が変更され作品のテイスト自体に大きな違いがある。
自分が一番好きなのはカクヨム版。単行本版のほうが新しいものが追加されることによって内容が整理されてわかりやすくなっているのだが、カクヨム版の同一タイトルの章が何度も更新される得体の知れない気味悪さとか、わかりにくいところがあることでかえってドキュメンタリー感が増している感じのほうが好みだ。カクヨム版はWeb上の投稿サイトで更新されていく臨場感・ライブ感というものが活かされたものであり、単行本版では媒体が変わることを意識し、怪異・恐怖をわかりやすく強調する方向で再構成されたのだなという気がする。
前2バージョンでは語り手は背筋氏その人であるのだが、文庫版では全く新しい語り手やキャラクターが登場する。モキュメンタリ―色が薄れ、怪異・恐怖よりもその背景にある人の心の哀しさが強調された作品になっており、最も小説的でわかりやすい。
それぞれ媒体や作品や作者を取り巻く状況の違いや変化を意識した上手いアレンジがなされていて、上手い人だなと思う。
作中のオカルト誌の読者投稿や記事は実話怪談的な内容でもあるが、かつての洒落怖的なテイストがあり、ネット上のそういった文化をしっかり落とし込んでいるのだなと思った。
あと、怪文書として有名な「トミダノ股割レ」の影響はこの作品にも見られ、あれが日本のホラー小説に登場する怪文書のたぐいに与えた影響は本当に大きいものだとあらためて実感する。どうかなと思うときもあるのだが。