「不良」という身近な存在を主人公にした『ドラゴンボール』
不良漫画にも色々ある。
土着的社会や特殊な共同体を舞台に人間の心の負の側面や社会不適合者を描くことの多い田中宏作品もあれば、『荒くれKNIGHT』のようにアウトローという神々による「神話」のようなところにたどり着いた作品もある。
『クローズ』『WORST』特徴であり、魅力の一つは、それが魅力的なキャラクターによるバトル漫画であるというところにある。
いわば、自分がかめはめ波をだせないということに気付いた若者のための「不良」という身近な存在を主人公にした『ドラゴンボール』である。
これは例えであって「そんなの子供の頃からみんなわかってるわ!」という苦情は遠慮していただきたい。
『クローズ』世界では現実の不良の持つ負の要素はできるかぎり漂白されており、身近な存在でありながらファンタジックな存在でもあり、哀しい出来事もまれにおこるのだけど、気持ちのいい男たちによる気持ちのいいバトルと友情が基本的に描かれ、不快な連中はちゃんと排除される。
非常に爽快な物語だ。
人情話回がないと書いたが、独立したそういう回がないというだけで、物語に連動する形でそれが埋め込まれており、いいエピソードも多い。人情話というより、人と人との関係性の物語が上手い作家であるといった方がいいかもしれない。
映画『クローズZERO』に登場した気のいい三下ヤクザ・片桐拳の鈴蘭時代を描いた『クローズ外伝 片桐拳物語』(14年)はそういう部分が強くでた良い物語だし、『QP』(11年)はそういった部分とバトル的要素がバランスよく結合した傑作だ。
あと、高橋先生は基本的にいい人なのが作品や発言の端々からうかがえ、人の死とか、極悪人とか、不幸な話を描くのは好きでないし、描くと本人に負荷が強くかかるような人ではないかと感じる。
『WORST』の天地軍団の面々も当初は人倫にもとる異常者たちぐらいのふれ込みだったけど、なんだかんだで良い奴らだし。
大東とか本気で天地のことを心配する熱い男だし、ガガもパチスロで勝ったらみんなにおごってくれる気のいい男で、そんなに極悪味がないのである。
そう考えると、文明が完全崩壊した世界で食料を奪って人々が殺しあうような『ジャンク・ランク・ファミリー』のような作品は高橋先生に向いてなかったような気が…。
