A君はインドに来るまで麻薬未経験だったらしいが、周囲のDQN旅行者たちに感化されて大麻を始めて、すぐに一日中ひたすら大麻を吸うだけの日々を送るようなった。出会った当初は精悍だった顔つきもいつの間にか大麻常用者特有のマヌケ面になっていた。自分が彼の親なら責任を取ってその場で殴り殺すところだが、旅先で知り合っただけの他人なので適度に距離を置きつつ普通に付き合っていた。
ある日、同じ宿に泊まっていたイギリス人の男から不思議なキノコの話を聞いた。南部(地名忘れた)にあるスイス人のグルが支配するコミューンで不思議なキノコ(マジックマッシュルーム)が栽培されていて、それを使った瞑想修行が行われているという。不思議なキノコに興味を持ったA君はイギリス人と一緒にコミューンに旅立った。自分も誘われたが観光したい場所が色々あったから行かなかった。
それから数カ月後、日本で再会したA君は超能力を身につけていた。
『ジョジョの奇妙な冒険』に登場するディオのスタンド能力「ザ・ワールド」と同じ時を止める能力。だがA君の能力は他人ではなく、自分の体内時間だけを止めるものだった。会話中に突然完全停止して、2秒後に何事もなかったかのように動き出す。それが20分くらいの間隔で発生する。時間停止中の2秒間は自覚できないので何が起こっても気づかない。かなり深刻な症状に見えたが病院は行ってないという。
コミューンでは不思議なキノコの他に大麻やLSDなども併用して修行して悟りを開いたらしいが、その代償として時間停止能力者になったのだ。どう見ても日常生活に支障が出ているし、大学も卒業できるとは思えなかったが、最終解脱者となったA君にとってはどうでもいいことなのかもしれない。とりあえず車の運転はしないように忠告して別れた。
A君とはそれ以来会ってないが、彼のおかげで麻薬は絶対にやらないと決意できたので感謝している。キッズどもよ、麻薬に手を出すな!
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文/白正男
画像/『ジョジョの奇妙な冒険』27巻(集英社)
初出/実話BUNKAタブー2024年1月号
PROFILE:
白正男(はく・まさお)
職業:義士、漫画原作者。出身成分:核心階層(抗日戦士)。正しい歴史認識と人権思想を啓蒙するため、本誌連載作品『テコンダー朴』の原作を担当。