301回 『小山田圭吾 炎上の「嘘」 』を読んだ
2024年7月、パリオリンピック開催を目前とした時期、中原一歩氏による『小山田圭吾 炎上の「嘘」 東京五輪騒動の知られざる真相』(文藝春秋)が世に出された。
3年前の東京オリンピック。20数年前の2つの記事、『ロッキンオン・ジャパン』1994年1月号(株式会社ロッキング・オン)でのインタビュー、『クイック・ジャパン』第3号(太田出版)(95年8月発行)の『村上清のいじめ紀行』という記事に掲載されたインタビューという、いじめ加害者としての体験を露悪的に面白おかしく語るようなインタビュー記事の存在が炎上し、オリンピック開会式の音楽担当だった小山田圭吾氏が辞任することになった。いや、正確にはその記事をもとにネット上で改変された情報が生まれ、それをもとにと言ったほうがいいだろう。辞任後もSNSでは激しいバッシングは続き、関わっていた多くのメディア関係の仕事を失い、所属していたバンドMETAFIVEの新譜の発売は延期、殺害予告までだされる事態に陥った。
小山田圭吾「いじめ」炎上事件に関して、小山田氏が学生時代におこなったとされていた障害者に対するいじめの実像、ああいった内容の記事が発表されてしまった経緯、記事発表時の小山田氏の活動状況や時代背景、オリンピックの音楽担当を引き受けるにいたった経緯、東京炎上時の本人や家族・関係者の様子、そういったものを多くの当事者・関係者に直接取材し、事実はどうであったかを検証しようというのが『小山田圭吾 炎上の「嘘」 東京五輪騒動の知られざる真相』である。
自分はこの問題に関して事件後に数回触れており、小山田氏個人に関する見解は特に変わらず、特に彼について述べることを今回はしない。小山田氏が以前に出した謝罪文が全てであり、その後の生き方で彼が証明していくことであって、糾弾したり、断罪する気もないし、特に擁護する気もない。
大筋では、『週刊文春』2021年9月23日号に掲載された中原一歩氏による小山田圭吾インタビュー、2021年7月16日号、2021年9月17日号に発表された小山田氏本人による謝罪文で語られていたことの裏取りをしていく本だ。
たいへんな労作であり、『クイック・ジャパン』の記事中で語られていた修学旅行で起きた出来事に関して実際にその現場にいた同級生の証言がとられていること、炎上時の小山田氏や家族・関係者の状況やオリンピックの音楽担当を引き受けてから辞任するまでの流れが詳しく書かれている部分などは貴重である。
特に『ロッキンオン・ジャパン』の記事を担当した山崎洋一郎氏(現・株式会社ロッキング・オン代表取締役社長)と小山田氏の所属事務所・スリー・ディー(株)との炎上時のやり取りが明らかになったのは重要だと思う。また、そのやり取りの中で、小山田氏の発言自体が捏造というのではないが、すべてが自分のやったことではないというのは説明があったのではないか、それを編集の段階で悪気なく本人がやったことにしたのではないかという疑問が事務所側にあったのだが、山崎氏の認識では記事内の発言は小山田氏の発言のままの内容ということになっていたという。取材テープが現存しないために確認しようがないことではあり、小山田氏の発言の内容が正確に伝わってなく(インタビューではこういったことが往々にして起きがちで、そこでゲラチェックの重要性があるわけだが、『ロッキンオン・ジャパン』では基本的にアーティスト側のゲラチェックがない)、山崎氏が取材当時にそのように受け取ってしまった可能性もあるわけで何とも言いようがない。