別の人間が本来やるべき仕事をAさんがやらざるを得なくなった結果として過重労働になった部分については、本来その仕事の責任を負うべき人間の無責任や怠惰の問題であって、明確な「悪意」の所在について問うのは難しいかもしれない。ヘアアイロンの問題にしても、意図的であったかどうかは火傷をさせた当人しか証明できないし、事故だったと言われたら、その後の対応の問題でしかなくなってしまうし、事後の対応が適切でなく、相手に誠意がなかったとは指摘できても、「悪意」ではなかったと言えなくもない。
しかし、歌劇団がハラスメントだと認めた例を見てみるに、わざわざ不必要な仕事をやらせて過酷な状況に追い込んだり、人格否定の言葉を投げかけたり、Aさんを本人の落ち度がないことで呼び出して集団で叱責したり詰問したりすること(そういった場で罵声・罵倒があったかどうかは遺族側と歌劇団側で主張が別れているようだ)を何の悪意なくやっていたとしたら、それこそおかしいだろう。宝塚歌劇団は異常な価値観を持った集団ということになってしまうのではないか。
運動部や応援団で上級生による下級生に対するしごきというか、暴行や精神的虐待や理不尽な要求が伝統化してしまっているケースはかってはよく見られた光景だ。ああいうのは善意の指導というわけではまったくないし、それを伝統として疑問視しないばかりか、加害側がかって自分が受けた被害を他人に与えることを喜んでやっていることも多い。
そこには「自分がやられたことを下級生にやって何が悪い。自分は悪くない」という心理が見られるわけだが、「自分は悪くない」と自己正当化しているだけで、他人を苦しめて喜びを感じるというのは「悪意」しかないと思う。今回のことも、そういった心理があった疑いはある。
また、文春に密告した不届き者をこらしめてやろうと、報復・制裁としてAさんへのハラスメントが激化した疑いはあり、もしそうなら間違いなく敵意を通り越して悪意である。その疑念が晴れてるわけでもないのに、「悪意」はなかったと言われても。
そりゃ、死んでしまえとかは思ってなかっただろうし、こんなことになるなんて思ってなかっただろうし、反省し後悔しているかもしれない。ただ、その時に苦しめてやろうという気持ちが全くなかったとは、とうてい思えないし、そんなこと言わなければいいのに。
パワハラ加害者にあたる劇団員を守りたくての発言かもしれないし、宝塚歌劇団自体を守りたくての発言かもしれないが、別に役に立たないと思う。あと、宝塚歌劇団は企業である以上、パワハラ加害者たちには何らかのペナルティを与えるべきではないかと思う。
「思いが至らず」??
今回の記者会見で村上・現理事長は(パワハラの)「証拠となるものをお見せいただきたい」発言について、「ご遺族への思いが至らず、反省している。おわび申し上げたい」と謝罪しているが、何を謝っているのか、よくわからない。そもそも、どんなつもりであの発言をしたのかを説明してほしい。
パワハラを否定するだけならともかく、あの発言は遺族に対する挑戦・挑発だと解釈するのが普通だと思うし、遺族側も実際にそう受け取っている。「思いが至らず」とか、そんな話ではないのではないか。